おかやま山陽高等学校 | Okayama Sanyo High School

活躍ブログ

「正解」のない場所で より良いものを探し続ける

坂手 壮太郎先生

Profile

さかて そうたろう坂手 壮太郎

英語教諭

出身

岡山県

担当

英語、ラーメンさかて 店主、軽音楽部顧問、調理科教員、入試広報課

趣味

野球、ボーリング、料理(作るのも食べ歩くのも)

ラーメンは中国・四国・関西地方を中心に1000軒以上食べ歩きました。

おかやま山陽高校の英語と調理科の教師でありラーメン店店主でもある坂手壮太郎先生。
「教えることとラーメン作りは似ていて、極意はより良くするために何ができるかを探し続けること」と語る。

『おかやま山陽高校調理科プレゼンツ ラーメンさかて』って?

——おかやま山陽高校の正門手前、岡山県道64号線沿いを西に行くと『おかやま山陽高校調理科プレゼンツ ラーメンさかて』というラーメン店の看板が見えてくる。令和元年(2019年)からおかやま山陽高校機械科の製図教室の2階で営業するこのお店、店主は、おかやま山陽高校で英語と調理科の教師を務める坂手壮太郎先生。気になるお店の詳しい話を聞いてみた。

始まりはとあるイベントなんです。私は入試広報課長をやっておりまして、オープンスクールで「ギネスに挑戦」という企画をしたんです。それは機械科のみんなに直径2m超の大きい鉄板を作ってもらい、そこに餃子2000個を並べて焼くという挑戦でした。でも途中でうまくいかなくなって、水餃子にするためにスープを入れたんです。イベントのあと余ったスープを使って生徒たちにまかないのラーメンを作っていると、ちょうど原田校長が来られて振る舞ったんです。すると「これうまいね、売れるよ。あそこでやったら」と言われ、食堂やカフェを使ってイベント的にラーメン店を営業することになったんです。
以前から保護者会の宿泊研修でラーメンを作って振る舞うことがあり、多い時は100杯、少なくとも50杯は作っていました。それが好評で保護者から「次もラーメンをやってほしい」と声がかかるようになっていたんです。文化祭や勉強合宿、体育祭のあとに「ご褒美ラーメンで乾杯しよう」ということもやっていました。あのオープンスクールで偶然、原田校長に試食していただいて胃袋を掴めたのかわかりませんが(笑)「やっていいよ」と言ってもらえたわけです。以降、現在の場所を私が学校から借りて月に1度、2日間営業しています。

▲月に2日の営業日には高校教諭からラーメン屋の店主に。

坂手先生、実は英語の先生

——坂手壮太郎先生は昭和49年(1974年)高知県生まれ。生まれてすぐ岡山県に引っ越し、高校まで岡山市で過ごした。外国語による異文化コミュニケーションに興味があり、外国に行ってみたいと思っていたこともあり、静岡市の常葉大学外国語学部英米語学科に進学。大学時代は中華料理店でのアルバイトや好きな音楽にも夢中になっていたそう。卒業後は英語を教える塾講師の道を選んだ。

大学を卒業して塾講師になり「教えることってこんなに楽しいんだ」と驚きました。英語を教えていましたが、生徒たちと接していると時間が一瞬に感じられました。中学生も高校生も本当にまっすぐで、そういう生徒たちと一緒にいるからこちらも一生懸命になり、それで時間があっという間に過ぎていく。そういえば子どもの頃ってこんな感覚だったと思い出しました。

勤めていた塾は学力によるランク分けをしていて、今、高校でやっている授業とそれほど違いはありませんでした。スキー旅行や塾卒業間近にバスを貸し切って東京ディズニーランドに行くこともありました。そういうときはバスのなかでギターを持って歌ったりしました。料理もですが、自分の好きなことが生徒との関わりのなかで生かされるんですよね。3年間教えているうちに教えることを仕事にしたいという気持ちになったんです。でも塾で続けることに体力的な厳しさを感じて高校の教員免許を取ろうと思い、大学に戻って改めて3年間勉強しました。

▲月に2日の営業日には高校教諭からラーメン屋の店主に。

おかやま山陽高校で働くことになったのは今の原田校長が副校長だったとき、縁があってお電話をもらったことがきっかけです。それにお世話になった恩師の方々が口を揃えて「おかやま山陽高校は面白い。いろんなことが出来る学校だよ」と仰っていたからです。私がおかやま山陽高校の教員採用試験を受けたのは平成12年(2000年)でしたが、機械科、自動車科、土木科、建築科、調理科といろんな専門科があり、当時から先生方は授業を工夫されていました。私は2001年に赴任し生徒に英語に興味を持ってもらいたくて、たとえば自動車科であれば、自動車の用語にからめた英語の授業を始めました。すると生徒が目を輝かせながら聴いてくれるんです。調理科であれば調理の用語を英語に直すなど、科に合わせた内容を授業に盛り込みました。とにかく、ほかの先生方がやらないことをと、考えていました(笑)。

幼い頃からラーメン作りに熱意!?

——坂手先生のラーメンへの情熱は幼い頃から片鱗が見られた。また好奇心旺盛でいつも〈人と違うことをやりたい〉と考えていた。ただ年を重ねると、そんなふうに思えなくなるはずだからと、大学時代に自身で思いついた「Be number one, or be different.(ナンバーワンになれなかったら、人と違ったことをやりなさい)」という言葉をモットーとしてこれまで過ごしてきた。

もともと僕は第2の人生として定年後にラーメン店と学習塾をやりたいと思っていました。ラーメン店と塾経営の二刀流のようなことをやりたかったんです。ですから『おかやま山陽高校調理科プレゼンツ ラーメンさかて』のオープンは、そのタイミングが少し早まっただけという感じです。でも実際にラーメン作りをやってみると、なかなかの力仕事! ですから若いうちに始められてよかったと思っています。

ラーメンは幼い頃からとにかく好きでした。8歳の頃かな?給食のラーメンを再現しようと、ミンチ肉とトンカツ用の豚肩ロースをダシにして味噌ラーメンを作ってみたことがあります。豚骨や鶏ガラはスーパーで売っていないので、なんとなくこの材料で作れるだろうっていう感じで選んで。両親は我慢して食べてくれましたが、妹は「おいしくない」って容赦ないこと言っていました(笑)。幼稚園の頃から台所使いたがるので、キッチンセットのような玩具を両親から買い与えられるくらい料理を作ることが好きでした。
大人になってからは、千数百軒のラーメンを食べ歩きました。最初は地元を中心に当時岡山県内にあった約500店はほとんどすべて回りました。それから広島の醤油とんこつ、尾道ラーメン、四国は徳島や香川、鳥取の牛骨ラーメン。九州の博多ラーメン、大学時代に住んでいた東海地方のラーメンなど、各地のラーメンを食べ歩いて、さらに土・日曜に友だちとラーメンツアーを組んで大阪・京都、兵庫県に行って、多いときには1日に10軒くらい回っていました。ほかにも東京のラーメン博など全国のラーメンが集まるイベントがあればすぐに行っていました。

そんななかで興味 深かったのは、原田校長が好きだったラーメン店と僕が昔から好きだった店が一致したことです。それが約40年前、天満屋岡山店の向かいのアーケードの地下にあったお店です。当時1日1000杯出るお店で、僕が求めていた味でもあったんです。だからでしょうか、試作したラーメンを味見してもらうと的確なアドバイスがいただける。共通の味覚というか、そういったバックグラウンドを共有しながら試行錯誤して、ラーメンを作るうちに自分の味が完成したんですね。これが平成30年(2018年)頃のことです。

▲現在ラーメンさかてで提供している「特製チャーシュウ中華そば」 (撮影:VIF 藤若)

スープにかける情熱

——『おかやま山陽高校調理科プレゼンツ ラーメンさかて』の月に2日間の営業日には開店前から行列ができ、29席の店内は常に満席状態が続く。メニューは鶏ガラ醤油味の中華そば、月替わりの数量限定ラーメン、チャーハンなど。ラーメンのスープは「豚骨醤油ベースの魚介風味」と「鶏ガラ」の2種類を用意。約14時間かけて行うスープ作りは子育てをする感覚だという。

スープ作りは営業の前々日から始めます。僕は第3週の金曜から授業を空けてもらっているので金曜の朝6時半頃から火を入れて、出来上がるのは夜の8時、9時。14時間ぐらいかかります。店のスープは2種類あって、いまだにひとつには絞りきれません。お客さんに聞いても好みは半々に割れます。どちらかというと豚骨醤油ベースのスープがオンリーワンの味なんです。豚骨の拳骨をベースにたっぷり使って、鶏ガラや丸鶏も使って野菜もしっかり煮込んで、煮干しなどの魚系、カツオ、昆布のダシと合わせると全部が豚骨の中に溶けこんでいくんですよ。そのなかでほんのり魚介も鶏ガラも主張しながら混ざり合って、ほかにはないスープの味になっていると思います。こだわりがあるからこそやりがいがあります。
私がおいしいと思うのは、スープが飲めるラーメンです。ラーメンの最後の決め手は麺だと思います。でも麺を美味しいと思わせるためにはスープが大事だと思っています。今作っているスープは〈これだったらほかの店や人とかぶることもない。似た味があったとしても、これは自分にしか作れないものだ〉という自信があります。店をオープンするまでの準備期間は、1カ月もあれば満足できるものができると思っていました。ただしその時のプレッシャーは半端なかったですね。「おかやま山陽高校調理科プレゼンツ」と学校の名前を背負っているので変なものは出せないという。その1カ月間は毎日ラーメンのことで頭のなかがいっぱいでした。〈これを入れたらおいしいだろうな〉とか寝る前に考え始めるともう朝になっていました。

難しいのが鶏のスープなんですよ。よく簡単だと言われますが、私の鶏ガラスープは鶏の「ダシ感」を出したくて、できるだけ濁らさないようにしています。〈いかに鶏の旨味を生かしていけるか〉と14時間ずっとスープの寸胴鍋を見守るのは子育てしているみたいな感覚です。子どもに何かあったら見に行かないと、という感じで目が離せない。スープが濁りそうだと思ったらフランス料理のやり方を応用して、スープのなかに20個ぶんの卵の殻を一斉に入れたり、臭みを消したいなと思ったら香味野菜を普段より多めに入れたり、時期によって滋養強壮が欲しいときはニンニクを加えたり。今の状態に何を加えるとより良いものができるか、14時間寸胴鍋を見守りながらずっと考えています。お店だからお客さんの反応を見ながらやっていくことになりますが、今やっている2種類のスープは誰からも教わらず、自分でたどり着いたものなんですよ。

教えることとラーメン作りの共通項

——『おかやま山陽高校調理科プレゼンツ ラーメンさかて』では、坂手先生を中心に調理科の生徒たちが厨房とホールをまかなう。約2万5000人が登録するFacebookのコミュニティ「岡山ラーメン学会」では様々な人が話題に取り上げる話題店でもある。期間限定のメニューは生徒と考えることも多く、新たなデザートなども共同考案から誕生しているという。

せっかくだから年に1度くらい生徒が考えたラーメンを「生徒ラーメン」というタイトルでやろうと考えて、初めて出したのが「かき氷ラーメン」です。普通の氷だと味が薄まりますから和ダシを合わせた鶏ガラの冷たいスープをかき氷にしました。それから「ロックンロール中華そば」も生徒発案です。250gくらいの大きな角煮を豚バラでロールして丼に乗せるんですよ。注文が5杯入ると1曲ロックンロールを演奏するという企画も生徒の考えでしたね。注文が5杯入ると1曲ロックンロールを演奏するという企画も生徒の考えでしたね。令和6年(2024年)、テレビ朝日の『ナニコレ珍百景』という番組で「高校教師とラーメン店の二刀流」として紹介された際にも「ロックンロール中華そば」を取り上げていただきましたが、年間を通じてもっとも人気のメニューになっています。

▲ 周年記念には「ロックンロール中華そば」(写真右:学校提供)の注文が5つ入ると店主自らロックを演奏するイベントを開催。

ほかにも「先生、こんなことやってみたら?」と提案されて、来店された方々にバレンタインのチョコレートをプレゼントしたことがあります。生徒がきれいにラッピングしてくれました。デザートでいえば、縁のある農家のオリーブ園に生徒とオリーブを摘みに行ったことがあり、収穫した約数10kgのオリーブの実を小豆島の工場に送ってオリーブオイルにしてもらったんです。これをバニラアイスにかけて、オリーブの実の塩漬けを乗せて出したんです。これが感動するほどおいしかったです。生徒と話しながら実現できたことです。

▲ 周年記念には「ロックンロール中華そば」(写真右:学校提供)の注文が5つ入ると店主自らロックを演奏するイベントを開催。

▲営業日の様子1 坂手先生と厨房を手伝っている調理科の生徒たち(撮影:VIF 藤若)

▲営業日の様子2 ホールでのオーダー取り、提供、会計、テーブルの片付けは生徒が担当(撮影:VIF 藤若)

調理科の1年生は年に1回、2年生は年に2回、ホテルやレストラン、病院などに校外実習に行きます。そのなかでもっとも学校に近い実習場所が『ラーメンさかて』なんです。ホールはたったの2人、厨房は3人で1日に100人以上のお客さんを相手するのでスピードも必要だし、ラーメン作りは和食にもフレンチにも通じます。だからこの店を経験した生徒はどこに行ってもうまくやれると思います。

先生という職業は生徒のためにできることをする仕事だと思います。「こうすれば良い」という絶対的な正解はなくて、〈どうしたら生徒のためになるか〉、〈どうしたら楽しい授業ができるか〉と、その都度良いものを探しながらやっていくしかない。考えてみるとラーメン作りも一緒なんです。私は仕事を与えられて「はい、やりました」で終わっては面白くないと考える性格です。
ですから、おかやま山陽高校はめちゃくちゃやりがいがある場所です。入試広報の仕事、生徒との関係、保護者との人間関係、ラーメン作り、いろんなことをより良くするために今、何ができるかと探すことができる。それだけのスペースを提供してもらえる場所なんです。
(取材:2025年2月)
ラーメンさかての次回営業日は、おかやま山陽高校公式X(旧Twitter)または、ラーメンさかて のfacebookをご確認ください。

おかやま山陽高校公式X(旧Twitter):https://x.com/koho17344278
ラーメンさかて facebook:https://www.facebook.com/p/ラーメンさかて-100063219519596/?locale=ja_JP

執筆:尾原 千明

撮影:上田 亜美(内田伸一郎写真事務所)

企画・編集:藤若 典弘、兼安 真未(V.I.F., Inc.)

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第1回オープンスクール
7/5(土)・7/6(日)
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